メリット
(1)債務の返済から免れる
被相続人の多額の借金など負債を背負わなくて済む。
第1順位(子など)及び配偶者、第2順位(父母など)、第3順位(兄弟姉妹など)の全ての相続人が相続放棄をすることによって、初めて家族全員が借金から免れることができますので注意が必要です。
借金などのマイナスの財産は、被相続人の振込カード、振込明細、通帳、債権者からの書類などで明らかになる可能性があります。借金の返済期日から10年を経過している場合は、消滅時効を援用することで、返済の必要がなくなる可能性もあります。
- 遺産分割協議で、特定の相続人がすべての財産を引き受けると合意した場合でも、マイナスの財産(債務)については、この合意をもって一方的に債権者に主張することはできません。
債権者の承諾があれば別ですが、原則として、この債務について他の相続人も相続分割合に応じて返済義務を負うことになります。このような場合は、家庭裁判所に対して相続放棄をしなければ債務の弁済から免れることができませんので注意が必要です。
(2)保証人の地位を引き継がなくて済む
生前に被相続人が引き受けていた連帯保証人としての地位を引き継がなくて済む。
例えば、被相続人が会社を経営していた場合、代表取締役(社長)であった被相続人は会社の借り入れについて連帯保証人となっている可能性があります。保証している債務の内容を確認することも大切です。
(3)遺産相続争いの負担から免れる
相続人ではなくなるので、遺産相続の争いなどに巻き込まれなくて済む。
相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったとみなされるため、遺産分割の話合い、遺産分配の争いなど相続手続から解放され、その負担から免れることができます。
デメリット
(1)プラスの財産も相続できない
現金、預貯金、有価証券、不動産などのプラスの財産もすべて相続できません。後から現金などの財産が見つかったとしても相続放棄を撤回することはできませんので注意が必要です。
(2)次順位の相続人への負担
相続放棄することで、次の順位の者が新たに相続人となってしまい負担をかける。
例えば、夫が借金をしていたため、妻と子が相続放棄をすると、第2順位の相続人である夫の父母が相続人となってしまいます。
さらに夫の父母が相続放棄をすると、第3順位の相続人である夫の兄弟姉妹が相続人になってしまいます。この第3順位の相続人が相続放棄をして初めて家族全員が借金の相続から免れることになります。結果的に新たに相続人となった人に負担をかけることになります。
(3)不動産の管理義務
不動産の相続放棄をした場合、相続人が不存在になると、相続人にその管理義務が残ってしまう
例えば、相続人にとって価値のない不動産があれば、仮に相続しても固定資産税の支払い義務を負わされるだけなので相続放棄しようと考えるでしょう。相続放棄することでこの不動産の所有者となることは回避できます。
しかし、相続放棄をしたことで相続人が不存在となった場合は、相続財産管理人など次の管理者が現れるまで、引き続き相続人が不動産の管理義務を負うことになるのです。建物が倒壊して近隣に迷惑をかけてしまいそうな場合、相続人がこの危険を取り除かなくてはなりません。
(4)撤回・取消
相続放棄の撤回はできません。
例えば、後から高額な預金が見つかったので相続放棄はやめたと、撤回することはできません。財産調査をしっかり行い、慎重に判断して相続放棄をする必要があります。
詐欺・脅迫など一定の理由で取消することができます。
相続放棄の取消は、詐欺・脅迫など一定の理由がある場合に、家庭裁判所に申述して行います。相続放棄の効果が遡ってなかったことになります。